Theプロフェッショナル歴史資料はリアルな防災マニュアル 

R&Dセンター 中井 春香
R&Dセンター
中井 春香

今、地震災害について何を考え、何に備えるべきなのかを、過去の歴史や教訓から読み解いていく歴史地震研究が進んでいます。当社でも歴史地震に関する研究・取組を実施しており、その内容を説明します。歴史地震から何を学び、どのように社会へ役立てていくのかを考えます。 (写真提供:Abee5)

【Theプロフェッショナル】歴史資料はリアルな防災マニュアル

今、地震災害について何を考え、何に備えるべきなのかを、過去の歴史や教訓から読み解いていく研究を歴史地震研究といい、理学・工学・歴史学・社会学・防災教育など各方面から研究が進んでいます。


私は、2013年10月から名古屋大学減災連携研究センターに所属し、大学の先生のご指導のもと歴史地震研究を進めています。もともと学部生の頃は、文化財保存科学を研究し、文化財の保存・修復をする一方で、活用・公開していくことの重要性を知り、保存と活用の相互性の難しさを学んでいました。歴史地震に関わるようになり、今まで学んできた歴史や文化財が過去の地震とつながることで、間接的に人の命を救う「防災・減災」へ結びついていくことに大変感銘を受け、この分野の研究の世界へ飛び込みました。今はまず手を動かし、足を運び、実際に自ら行動することからはじめ、その先には防災教育を目標にかかげています。


現在の研究テーマは、1945年に発生した三河地震です。この地域の地震としては、最も近年の地震といえます。まず始めに地震被害についてきちんと原本に立ち返りデータを整理し、資料調査を実施しました。その結果を用いて震度分布図を作成し、研究の基盤を作ります。その次に、死者数に関する検討や現地調査を進めていきます。日本には、三河地震を発生させたようなたくさんの断層があることが分かっていて、断層周辺地域の特徴的な被害を解明することは、その対策の方法をより明確にできると考えられます。今後は、様々な角度から検討をすることでその答えに近づくことができればと感じています。


また、各地に残された石碑や史跡などの現地調査を実施することで、被災の状況だけでなく復興における過程などが分かってきました。石碑の中には、記念碑とされるものがあります、ここで疑問に思うのは、「慰霊」ではなく「記念」?ということです。これは濃尾地震の石碑を調査していて気付いたことですが、石碑には死者を弔う「慰霊」の意味だけではなく、みんなで復興してきた過程を祝してそのねぎらいに建立される碑も存在するということでした。普段は人目に触れない石碑を読んでみるだけでも当時の被害や、人々の復興について感じることができるのです。


石碑

この原稿を読んでいただいている方の中には、まだまだ歴史地震が遠い存在に感じているかたもいるかもしれません。しかし、皆様の所属されている機関、お家にも、もしかすると過去の災害に関する情報が眠っているかもしれないのです。これらの資料は、ただの歴史資料ではなく、私たちの先祖がどのように災害を乗り越えてきたのかを私たちに教えてくれる重要な防災マニュアルなのではないでしょうか?例えば戦後この地域に自然災害として大きな被害をもたらした1959年の伊勢湾台風の時の経験や関連資料、写真といったものも重要な災害資料です。意外に身近なところに災害資料は残されているのです。そこから、何を読み解き、何を学ぶのかは私たち自身にかかっています。


この他に大学の防災教育研究会では、防災について学べる子ども向け『ゲンサイカン学習帳』などのプロジェクトに参加をしたり、ハザードマップを作成したりと、歴史地震の知識をどのように今の防災・減災へ生かしていくのかを日々模索しています。こういった取組の中で、今住んでいる地域の土地の成り立ちや歴史を知ることが防災・減災の第一歩ではないかと考えるようになりました。例えば昔、本当に島だったから現在の地名に島が残っている地域や、昔は川があったから欄干が残っているけれど現代では道路で面影もない、なんてことはよくあります。だからこそ、今住んでいる地域がどのように形成され、過去にどのような場所であったのかを知ることで、どういった備えが必要なのかが分かってきます。ハザードマップや防災ガイドはこういった視点を変えて観察することや気づきを与える重要なツールであると考えています。


これからは研究や業務を通して、『災害を受け流せる』、ひと・まち・社会に少しでも近づけるように、そして地域における地震の"記憶"をしっかりと未来へ残していくために、この地域でどのようなリアルな"記憶"が必要なのか、を日々考えながら活動していきます。


プロフィール

中井 春香 (なかい・はるか) R&Dセンター

1989年、三重県生まれ。
2010年、奈良大学文学部文化財科学卒業。(保存科学専攻)
同年、ナカシャクリエイテブ株式会社に入社し、以後、観光に関する企画を実施するなど『文化のR&D』として新規ビジネスを展開。
2013年より名古屋大学減災連携研究センター・受託研究員を兼務。歴史地震研究について学び、ハザードマップなどの防災関連業務に携わる。

加入学会

日本地震工学会、歴史地震研究会、地域安全学会、日本災害情報学会

講演履歴

学会・シンポジウム・セミナーなど

2014年6月: 中部歴史地震研究懇談会 (於:名古屋大学)
2014年9月: 歴史地震研究会2014 (於:名古屋大学)
2014年12月: 日本地震工学シンポジウム2014 (於:幕張メッセ)
2014年12月: 中部歴史地震研究懇談会 (於:名古屋大学)
2015年1月: 幸田町主催三河地震勉強会 (於:幸田町)
2015年5月: 地域安全学会2015 (於:伊豆大島)
2015年6月: 中部歴史地震研究懇談会 (於:名古屋大学)
2015年9月: 歴史地震研究会第32回大会 (於:京丹後市峰山総合福祉センター)
2018年5月:平成29年度「日本地震工学会 論文奨励賞」受賞者記念講演

        

受賞実績

        

2017年10月: 日本災害情報学会第19回学会大会 奨励賞『阿部賞』受賞
「過去地図と史跡から災害を考える ヒストリカルハザードマップ」
2018年3月: 日本地震工学会 平成29年度論文奨励賞 受賞 
「1945年1月13日三河地震における全潰家屋数と死者数の関係~なぜ多くの犠牲者を生み出したのか?~ 」

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