360°パノラマ動画を、ネットワークでダイレクトに配信する"360°ストリーミング"がいよいよ現実的になって来ました。
少し前まで、複数のカメラ出力をHDMIから出力し、高性能なGPUを搭載したPCで受けてスティッチする方法しかありませんでしたが、最近では、カメラの内部で360°動画をスティッチしてWi-Fiを経由(またはスマートフォン経由)で360°動画を配信できる機種が出てきました。
現在(2017/08/07時点で発売されている)出ているカメラは、家電量量販店で手に入る3万円程度のモノから、個人でも背伸びすれば手の届く10万円程度のモノ、プロが使用するような30-40万円程度のモノまで色々あり、配信解像度も2Kから4K、今秋から今年度末にかけては5.7Kへとどんどん高精細化が進んでいきます。下記に現在時点の比較表を掲載します。
現在(2017/08/07時点)発売されている360°ストリーミングカメラの比較をしました。
※当社では、"音声""スタビライザ""バッテリー""外部バッテリー利用""端子"などの情報を網羅した、より詳細な一覧を作成し、新しいカメラが発売される度に更新しています。
iO360 Giroptic |
リコーR リコー 2017/6発売 |
Insta360nano ハコスコ |
Gear360SM-R210 サムスン |
VIRB360 ガーミン |
Insta360Pro ハコスコ |
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価格 | ◎ $299(約\33,500) |
◎ 未定 |
◎ \24,000 |
○ $299(約\33,500) |
○ $799(約\90,000) |
○ $3,000(約\340,000) |
静止画画質 | ○ 3840x1920 |
× 対応しない |
△ 400万画素 |
○ 1500万画素 |
◎ 5640x2816 |
◎ 7680x3840 |
動画画質 | △ 2K@30fps |
△ 2K@30fps |
○ 3K@30fps |
◎ 4K@24fps |
◎ 4K@30fps 5.7K@30fps(外部スティッチ) |
◎ 4K@30fps 8K@30fps(外部スティッチ) |
ストリーミング | ○ 2K@30fps |
○ 2K@30fps |
○ 3K@30fps |
◎ 4K@24fps |
◎ 4K@30fps |
◎ 4K@30fps |
当社で購入した機器の簡単なレビューです。
フランスの360°カメラメーカー"Giroptic"が3月に発売したスマホ利用の360°カメラで、2Kライブストリーミング・動画、4Kの静止画撮影が可能。
画質はかなり優秀で、屋外屋内でも適切な露出で、くっきりとしています。
ストリーミング先はYoutube、Facebookに対応しています。
iPhoneのLightning端子に接続する方法なので、スマホもカメラも給電しながらの配信には対応していません。
本体内にはストレージを持たないので、スマートフォンに保存するか、クラウド上で保存する方法になります。また、録画しながらの配信も出来ません。
GPS関連のプロダクトで有名なガーミンが、360°カメラを発売しました。Wi-Fiを経由して4Kのライブストリーミングが可能。本体内で4K動画をスティッチやストリーミング、PCによるスティッチでは5.7Kに対応しています。(当社で未検証)
このカメラの最も秀逸な機能は、G-Metrixといって、内蔵するGPS、加速度、ジャイロなどのセンサーの情報を、360°動画の上に透過オーバーレイして表示する機能です。位置情報の精度もさすがガーミンです。5メートル道路幅員のどちらを歩いているかが判別できるレベルです。
画質は、静止画、動画、ストリーミングのどれも素晴らしいです。明暗差がある部分の撮影では、露出の切り替えが若干遅いように感じましたが、プロモードで、撮影パラメータをすべてマニュアルで設定できるのでこのあたりはカバーできそうです。
外部電源による給電も可能ですので、熱暴走が起こらない範囲で、連続利用出来るでしょう。
カメラを自由に選択できる方法として、動画配信サーバの利用があります。通信環境を多重化したり、再接続などの処理を自働化するなどのメリットがあります。
カメラ側ではスティッチまでを任せ、動画配信サーバ側でネットワーク周りを負担させることで、カメラの負荷を下げる(熱暴走を抑止する)効果を期待できます。
今回は、Cerevoが発売し、Live配信の実績多数のLiveShellを使います。
Cerevoが発売する動画配信サーバLiveShellの最上位バージョン"LiveShell-X"は、1080p@60fpsまで配信でき、同時に2つまでのクラウドサービス+録画が可能な動画配信サーバです。
バッテリーで3時間連続動作し、PCレスでの長時間の安定した配信が特徴です。
※配信の安定度はお墨付きで、当社は、数時間かけて開催される社内発表会でも、一度も不安定にならず、ノンストップで配信できています。
LiveShell-Xの配信先には、"Youtube360"というプリセットがあり、1080Pまでの解像度で360°ライブ配信が可能なようです。
VIRB360のHDMI出力をそのままLiveShell-Xに接続しYoutubeの360°配信をした画面が下記です。
360°ライブ配信での課題は大きく3つあります。これは、360°動画という映像がこれまでのビデオに比べて、高い解像度となりがちなことと、エンコード/デコードの負荷、フォーマット対応状況によります。
モバイル機器で一般的に用いられている公衆回線は4Gです。360Pで受信できればまだ良い方で、せっかく2Kで配信しているなら720P程度は出したいところです。
さらには、今後カメラが4K、5.7Kと高解像度化していくので、5G回線が一般化するまで待たなければなりません。
もしくは、光回線を前提としてリビングのTVや、事務所内のPCで見るなら問題が無いかもしれません。
モバイルルータを使う場合には、契約の帯域が問題になるかもしれません。当社では、当初ライブ配信のテストに7G上限のルータを使っていて、数日間で帯域を使い切りました。
まだまだ送受信の回線帯域とコストの課題があると考えています。
当社ではストリーミング検証に、事務所内のWi-Fi+イーサネットやモバイルルータ、Youtube360、FacebookLiveを使いました。
配信側の回線は、設置型のWi-Fiルータのフルバンドとイーサネットを利用できるため、比較的恵まれていると思いますが、それでもYoutubeでは20秒程度の遅延、Facebookでは10秒程度の遅延が発生します。
つまり、ストリーミングとはいえますが、"ライブ"とは言えない状況です。
「現場にモバイルルータと360°カメラで、現場情報共有が出来る」というリアルタイム性を求める使い方には、まだまだ程遠いのが実情です。
もちろん、タイムラグを許容できる一方向の使い方であれば十分に満足できる品質ではあります。
上記のように、360°映像はリッチなコンテンツなので、端末の性能もネットワーク回線もとても贅沢な環境を必要とします。
特に、4K動画以上の360°映像ではH.265によるエンコード/デコードが必要です。
H.265の実装状況は、まだまだで、スマートフォン用の360°ビューアでH.265に対応したものはYoutubeのビューア以外にはありません。
スマートフォンのディスプレイの解像度、ビューアの対応などが完了するまでは、2Kまでの配信が現実的です。
しかし「そもそも360°なんか必要ない。180°でいいんんじゃないか?」という考え方もあります※1。
※1:Googleは、新しい映像フォーマットとして"VR180"を推進しはじめました。
スマホを使用するiO360では、バッテリーの減り(スマホも本体も)が激しく、1時間持てば良い方です。しかも外付けの充電が出来ません。
当社の検証では、冷房の効いた室内での固定撮影で1時間15分連続動作、連続ストリーミングは1時間6分。最後は熱暴走でカメラを認識しなくなりました。
(スマホのソフトウェアは生きていたので、恐らくカメラ本体が熱暴走しています)
また、優秀なソフトウェアスタビライザー機能がついていますが、これをONにして配信すると、10分も配信しないうちに、たちまちダウンするという不安定さを持っていました。 バッテリーが完全に無くなるまで開始・ダウン・再接続を繰り返しましたが、1時間の間に8回もダウン、熱暴走するなど、完全にアウトです。
VIRB360では、本体バッテリーは1時間程度持ち、さらに外部電源供給が可能なのですが、30分程度連続配信したところで、HighTemperatureの表示が出て、シャットダウンしました。
スマホアプリでスタビライザーやARなどの処理を行っている場合は、もっと短時間でフリーズします。
本体電源ボタンが効かなくなるほどの落ち方をしますので、バッテリーを一度抜いて、停止させなければなりません。
リコーはCES2017で、24時間連続ストリーミングを目指した360°カメラを参考出展し、リコーR Development Kitとして予約を開始しました。年内中には4Kストリーミングカメラを出すとしています。
Goproは、夏頃にfusionという5.7Kカメラを出すとアナウンスし、評価ユーザーを募集しました。
マスプロ(コダック)は4KVR360を既にリリースしており、リアルタイムにHDMIから出力できる機能で、実は名機と言われているいるようです。
6月にソフトバンクがiO360を販売すると発表しました。
今後のキーワードは、実は解像度ではなく、熱対策や外出しの可能性です。 リコーRの開発者の方が言っている通りの状況ですね。
文章:R&Dセンター 松井良行
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