社員がゆく日本博物館協会の研究協議会に参加してきました!

日本博物館協会の研究協議会に参加してきました!

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2018年3月8日~9日に京都国立近代美術館で開かれた公益財団法人日本博物館協会主催の研究協議会に参加してきました!今回のテーマは「観光と博物館―文化財の保存と活用―」についてです。

研究協議会の内容は、こちらです。

平成29年度研究協議会(主催:公益財団法人日本博物館協会)
日 時 平成30年3月8日(木)、9日(金)
会 場:京都国立近代美術館 講堂
<1日目>3月8日(木) プログラム内容
・基調報告 「観光と博物館 今 求められていることICOM 京都大会を見据えて」
講師:栗原 祐司(京都国立博物館副館長、ICOM京都大会運営委員会長)
・事例報告 1 「国際観光都市 京都の博物館の連携と取組」
講師:細見良行(細見美術館館長、京都市内博物館施設連絡協議会幹事長)
・事例報告 2 「国宝 二条城の保存活用に関する取組」
講師:北村 信幸(二条城事務所長)(予定)
・事例報告 3 「松本まるごと博物館の取組」
講師:木下 守(松本市立博物館館長)
・事例報告 4 「地域文化財の保存と活用 博物館の役割」
講師:村上裕道(文化庁地域文化創生本部研究官 兵庫県教育委員会参与)

<2日目> 3月9日(金)プログラム内容
・事例報告 5 「当館の多言語化への取組と課題」
講師:平井 章一(京都国立近代美術館主任研究員)
・事例報告 6 「外国人から見た日本の博物館の多言語化」
講師:閔スラ(大阪大学大学院文学研究科)
施設見学 (京都国立近代美術館常設展)

この講演の中で気になったものをいくつか取り上げてお話します。
栗原裕司さん(京都国立博物館副館長)の基調報告と村上裕道さん(文化庁地域文化創生本部研究官)の事例報告では、これからの文化財の保存と活用の在り方についてお話がありました。

 

文化財の置かれている現在の状況って?

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―文化財保護法改正について―

3月6日に文化財保護法の一部を改正する法律案が国会に提出されています。

今までの文化財行政は保存することに重点をおいていて活用することについての施策は盛り込まれていませんでした。国が指定した文化財の修理・公開をその所有者の責任で行っていて、国はその費用を補助したり、変更をする際の許可をしていました。ところがこのままだと、所有者の負担が重く、維持や管理が行き届かなくなるという問題が起きています。社会問題にもなっている過疎化や少子高齢化を背景に、文化財を守ってきた地域コミュニティーも衰退してきています。
文化財を維持、管理する担い手の確保が解決しなければならない課題だったのです。

改正によって、指定を受けていない文化財や周辺の環境なども含めて、総合的に保存活用する基本計画を市町村が作成できるようになりました。国がこの計画を認定し、補助や税制優遇措置などの支援を行っていきます。

また民間による観光関連事業を組み合わせて、収益をあげるしくみをつくりだし、地域の文化や伝統を国に依存しない形で、自立的な継承につなげようとしています。

文化の保存・継承を図りながらも、「稼ぐ」文化行政に変えていこうという取り組みです。

 

―文化経済戦略について― *1

EFAF「ART MARKET REPORT 20017*2の調査では、文化財や文化施設、芸術などが生み出す経済的価値、日本の文化GDPは1.8%(約8.8兆円)にとどまっています。世界的にみると、その比率が最も高いのはオーストラリアで6.9%、次いでイギリスが5.0%、米国4.3%、フランス4.0%などとなっており、欧米諸国に比べて低いです。これを2025年までに3%(18兆円)に拡大することを目指しております。
政府は観光を日本の基幹産業として成長させて、「観光先進国」にする取り組みを進めはじめています。

2019年1月より創設される国際観光旅客税の使途について方針が発表されています。3つの分野に充てることが決まっています。

平成30年度において観光財源を充当する具体的な施策・事業*3

平成 30 年度において観光財源を充当する具体的な施策・事業

詳細な使途についてはこれから決まりますが、文化財などへの解説に多言語対応の予算をつけることは決定しているそうです。

文化財を活用し、観光資源とする取り組みについて、その拠点となる博物館や美術館の現状はどうなのでしょうか。
平井章一さん(京都国立近代美術館)と閔(みん)スラさん(大阪大学大学院)の事例報告をご紹介します。

訪日外国人が増加するにあたり、博物館や美術館に足を運ぶ人も多くなり、その対応が求められています。

全国の国立博物館・美術館の方針として、日本語のほかに英語、中国語(簡体字)、韓国語の4言語に対応することの標準化を進めています。*4
解説パネルはもちろん、会場案内図や作品リスト、音声ガイドも4言語で対応しています。

全国の文化財の状況をみてみると、まだまだ外国人の受け入れ体制は不十分のようです。年間50万人以上が来場する文化財がある自治体でも、6割の地域で多言語に対応していないのが実態*5です。

ただ多言語化をすればよいかというとそうではありません。多くの館では展覧会の解説文を担当の学芸員が執筆します。日本語の文章は、作品の意図や時代背景などについて理解を深められるよう文章を練って作成しますが、翻訳については、外部に委託している施設が多いのが実態です。また翻訳された文章を学芸員が精査することは難しいようです。専門用語は専門的な知識をもった人間でなければ誤訳する恐れもあり、内容の質を高めるための工夫が必要です。

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国立博物館では、アソシエイトフェローという形で専門知識のある翻訳のスタッフを雇っています。アソシエイトフェローは、対象となる言語を第一言語とする人で、日本の歴史や文化を研究してきた人材が採用されています。仕事の内容としては、文化財の解説文の外国語への翻訳、翻訳業者が作成した翻訳の校正をしています。協議会に参加されていた京都国立博物館のアシスタントフェローの方は、専門用語について、辞書的な整備の必要性があるとお話されていました。
国立博物館では、組織の内部にこうしたアソシエイトフェローを置くことができ、精度も保つ工夫がなされているようです。

また閔スラさんからは、外国人の視点からみた館内外施設や展示内容の説明についてどのような点に配慮すべきかの事例報告を発表していました。発表者の閔さんは韓国の方で、大阪市内の4つのミュージアムで調査*6をおこなっています。
① 最寄駅からミュージアムに着くまでの案内や地図などへの表記
② ミュージアムの内部について注意事項などの表記
③ ホームページでのアクセス方法や展覧会の情報
などミュージアム内外とインターネットの3つの領域で調査をおこなっています。

博物館の多言語化というと、どうしても展示品の説明や作品に対する解釈などを多言語化することなど「展示の多言語化」を優先的に考えてしまいがちです。しかしそもそも外国人来館者が何を求めているのか見逃してはいないでしょうかとのお話がありました。

閔さんは、自分が外国の博物館に行ったときのことを考えてくださいと話されていました。
まずそこにたどり着けるのか、どういった手順でチケットを購入するのか、マナーやルールがあるのかを事前に調べて計画することが多いのではないでしょうか

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言葉が通じない国では作品に対する期待よりも、まずミュージアムの場所やマナーやルールを理解して安心して鑑賞することを優先的に考えるべきではないでしょうか。「展示の多言語化」よりもまず「施設の多言語化」はできているのかをお話されていたのがとても印象に残っています。

問題点として挙げられていたのは、外国人旅行者が気にするであろう、注意事項の多言語対応についてです。
例えば「ストロボ禁止」。ストロボは韓国では一般的ではないそうで、代わりにフラッシュを使うそうです。他に「SNS掲載禁止」は、SNS(=Social Network Service)という単語は日本や韓国でしか使われていない和製英語です。英語圏において「Social Media」という単語を主として扱うそうです。

チケットの購入案内には英語表記があるものの、実際に購入するチケット販売機は日本語のみの表記になっている事例など、調査をおこなうことによって浮き彫りになった課題がありました。

 

多言語対応は定期的にアップデートが必要

日本語にはない視点で衝撃を受けたのが、時代に合わせた改訂の必要性です。
今の韓国語の場合、ハングルのみの文章が表記されることが多いです。しかし20~30年前には、表記方法の一つとしてハングルに漢字が混じった「漢字ハングル混じり文」が使われていました。今の若い世代では、この「漢字ハングル混じり文」を読めず、年配の韓国人に再度翻訳してもらわなければ、理解できないそうです。
多言語化というと一度翻訳すると満足しがちですが、時代に合わせて改訂が必要のようです。また韓国語にはフォントにも流行り廃れがあるそうで、韓国人からするとフォントで古いものなのか、新しいものなのかわかるそうです。

今回の研究協議会では、博物館をはじめとする文化財の置かれている状況の変化や地域の観光を盛り上げるため観光の拠点としての博物館で何が必要なのかを学ぶことができました。特に多言語化については、展示の多言語化をするだけではなくて、博物館の入場方法やチケットの購入の仕方、マナーなどトータルで対応していく必要性に気づかされました。

 

解説

*1
内閣官房・文化庁 「文化経済戦略」の策定について  2017年12月27日
「文化経済戦略」資料

*2.EFAF 2017「ART MARKET REPORT 2017」
「日本語以外もOK 国立美術館・博物館が多言語で解説」  2017.9

*3.平成30年度において観光財源を充当する具体的な施策・事業
国際観光旅客税(仮称)の使途に関する基本方針等について  平成29年12月22 日 観光立国推進閣僚会議決定

*4.日本経済新聞夕刊 
「日本語以外もOK 国立美術館・博物館が多言語で解説」  2017.9 日本経済新聞夕刊

*5 
観光戦略実行推進タスクフォース(第12回)平成29年5月22日 資料4-2:文化庁資料より

*6.閔スラ 
2018「外国人が見たミュージアムの多言語対応―適切な多言語化とはいかなるものか―」『博物館研究』第53巻第3号


 

 ▼この記事を書いたひと

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観光・インバウンド担当
中村 萌

大学では、考古学を専攻していました。趣味は博物館と史跡めぐりです。
学生時代に47都道府県すべてを旅行した経験があります。

 

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