国立大学法人 名古屋工業大学(NITech)でAI研究センターが立ち上がるということで、そのキックオフシンポジウムに、当社R&Dセンターのメンバー全員で参加してきました。
実は、名工大発ベンチャーとして知られる"株式会社コネクティボ"の平野社長からのお誘いで知ったイベントです。
大学の入り口から入ると、名工大が生み出したSpeechプログラム"OpenJTalk"を使った応答サイネージメイちゃんがお出迎え。と言いたいところですが、システム入れ替えのため、マイクで話しても音声入力できませんでした。残念。
※実は、後で開発者による実機デモに立ち会うことが出来ました。
大学の空気感っていいですねぇ。この日は(講義中なのか)学生もまばらで、社会人が多めです。
「この人達、みんなディープラーニング(AI)の研究者や、仕事で使っていく(使っている)人達なんだろうなぁと思うと、かすかに興奮します。」
受付を済ませて第一部の会場に入ります。
第一部の一番初めは、学長の鵜飼裕之氏のあいさつ。続いてAI研究センター センター長の伊藤 孝行教授から講演がありました。
ものづくり愛知、名古屋のAI技術を集積・発信するぞ!とざっくりと言えばそんな熱い想いのこもったお話でした。
何が熱いって、人工知能についての国際会議である"IJCAI2020"の名古屋誘致を展開していて、名工大が中心になって進めているということ。
「2020年に、皆さんと一緒にAIを使ったソリューションを世界に発信しましょう!」だなんて、熱いですね。
当社も2020年の国際会議のタイミングに向けて、何かしなければ...と背中を押された気分です。
特に、名工大は産官学金連携機構のための組織や実績があり、強みだということで、次の江龍修教授からの産官学金連携機構のお話。
社会人修士コースがあり、会社で持っている課題を、一年を通じた活動の中で解決していく。大学の研究者や先生と交流しながら課題に取り組む...という話に前のめりになりました。
委託研究、共同研究、社会人修士コース...確かに、色々なやり方がありそうです。
私たちもR&Dセンターと看板を掲げている以上、アカデミックな部分まで含めて、課題解決能力を研鑽しないといけません。
「社会人修士、いいなぁ。」
午後は、翻訳のためのレシーバーを受け取って、英語による(実際には同時通訳の日本語による)具体的なお話が続きます。
ハーバード大学教授のDavid C. Parkes先生が登壇され
"On AI, Markets, and Machine Learning"というタイトルで
AIによるエージェントシステムが交渉事や経済メカニズムの設計、価値の調整なんかをすることでGIGエコノミー(※1)が出来つつあるよという話。
ちょっと経済の話題は疎いのですが、「まぁ来るのかなぁ」と私にとってはあまりピンとこない話でした。
※1:Gigエコノミー
インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態。例えば、ライドシェアなどシェアリングエコノミーの利害調整をAIがやってしまうイメージ。
続いて登壇されたのは、トヨタ自動車の岡島博司氏。"AIとクルマが変える,人々の暮らし"と題して、トヨタのAIへの取り組みの話。
「全自動のAIを考える前に、安全安心な移動とは何か?が重要」であり、「全自動で車を動かすことが目的ではない」...というような強いメッセージを感じましたね。
海外AIベンチャーの提案する全自動運転車に命を預ける気になれませんが、トヨタ車なら...と思いますね。(それでも私は自分の手と足と頭で運転したいです)
三番目の登壇は、グルーポンというオンラインショッピングサイトの機械学習研究部門 部門長のJoaquin Delgado氏による"Recent Advances in Personalizing E-Commerce"、主に推薦システム、パーソナライゼーションのお話。
AI以前の機械学習とかレコメンドシステム、ユーザログの活用といった内容でした。堅実に利益を上げている会社のリアルですね。
内容ベースの推薦、持続的な興味(ブックマークやカート、参照ページ、いいね)を捉えた推薦、協調型フィルタリング、場所に依存した推薦...どれも旅行地における検索や推薦の際に、共通していそうな話題でした。
講演の最後は、国立研究開発法人産業技術総合研究 人工知能研究センター 野田五十樹氏を迎えて"AI技術はものづくり産業にどのように貢献できるか?"というテーマのパネルディスカッションでした。
IoTで蓄積される製造に係るデータを使った最適化。リリース後のライフサイクル全体に渡って取得する利用ログによる製品開発やサービス開発ではまず間違いなく効果を出せるという話や、私は良く分かりませんでしたがマルチエージェントソーシャルシミュレーションなんていう事例を野田氏が話していました。
セッション中で、会場からの質問を受けて、David C. Parkes氏がAIへの誤解に対するコメントをしていて面白かったのです。「AIは何か万能なモノではなく、コンポーネントの集まりである」と。
確かに、会場での質問は、汎用AIやシンギュラリティを前提としたようなとんちんかん(失礼!)な質問も散見され、誤解を拡散しないように、(専門家として)制しておかなければと思われたのでしょうかね。
AIや人工知能という単語の使われ方が、SF的、黙示録的に使われたりする昨今、正確な"機械学習""ディープラーニング"の姿に正していくいくことは、技術を考えていくのと同様に大事なことだと感じています。
名工大の各研究部門で現在やっていることの報告がありました。
伊藤孝行教授率いる、研究グループは、AI同志の協調やAI間の利害調整というような未来の研究をしています。
自動運転車の譲り合いなんていう喩えが(※2)がありました。GANのように特定の専門のAI同志が、自らの価値観をぶつけ合ったり、譲り合ったりして、全体最適に至るのでしょうか?
計算アルゴリズムの問題ではなく、社会的な価値観とか優先度の議論(※3)になるんでしょうね。
※2:自動運転車の譲り合い
「交差点でのどうぞどうぞ」という話がありましたが、交通ルール(ルールベース)とルール以外の判断の話はちょっと違って、「交差点でどうぞどうぞ」は幹線道路優先、左側優先、交互走行などのルールベースの話。自動運転車が高速道路に合流するときの阿吽の呼吸が、ここで言う協調動作ですね。人間と自動運転車の呼吸の問題というのがもっと大事ですね。
※3:社会的な価値観と優先度の議論
最近、MITがモラルマシンを公開していて、人の価値観を見える化しようとしています。私たちは何を優先すべきなのか?という問題は、AIの倫理や持たせるべき哲学の問題ともリンクしていて、とても面白いです。結局は"人間"のあるべき姿(公平性の高い最適解)を模索する活動なのかもしれません。
実は、私たち(R&Dセンター)のメンバーは、ある課題を背負って、このシンポジウムに参加しました。
の二点です。
ショートプレゼン、ポスターセッションを通じて、「画像系の研究がほとんどない」ことに気が付きました。
「画像のテーマでは、ほとんど研究レベルではやることが終わっている」というのは、以前どこかで見聞きしたことがありました。
まさに、研究の最前線では、音声発話、音声認識、触覚、マルチエージェントと、マルチモーダルな認識や、AI間の調整、人間とのコミュニケーションに話題が移っているのかなぁと想像しました。
R&DセンターのNさんやKさんは、とある画像系のポスターセッションをやっていた方の前で、長い間話し込んでいました。
モデルの性能評価や、過学習の抑止、理論的な課題を求めて、質問攻めにしていたようです。
今、私たちは応用実装から追いかけて、「まず仕事に使えそうな成果はないか?」というアプローチをしていますが、性能向上やそれ以上の要望が出てきたときに、やはり独自でモデルを設計したり、実装したり、評価したりという"実力"を問われてきます。
その部分が全く足りていないという自覚があるので、「もっと理論から理解しなきゃダメだなぁ」と、大学に救いを求めるわけなんですね。
とある研究者から「この本の初めから、みっちり時間をかけて理解したほうが良い。(私は三カ月かけてこれをやりました)」と機械学習の本を紹介されました。
私の方は、コネクティボ平野社長と共に、伊藤先生や岩田先生の紹介を受け名刺交換と立ち話をさせていただきました。
「映像・画像で公共インフラの変化抽出をしたい」とお伝えし、詳しい先生の紹介や、今後の相談先として門戸を開いていただけました。
まず、最低限のマナーとして、先生方の論文を読まなきゃいけないなと緊張しているところです。
私たちの課題は、最終的に、土木、建設など社会インフラの基盤を保守する会社様に対して、画像技術で省力化や安全確保を実現すことです。
機械の目(高精細カメラ、360°カメラ)と機械の視覚神経(ディープラーニング、エッジデバイス)を使って、2020年の国際会議までに必ずや、産業界からの強力な成果の報告ができるように、頑張っていきます。
▼この記事を書いたひと
R&Dセンター 松井 良行
R&Dセンター 室長。コンピュータと共に35年。そしてこれからも!
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