普段はここで歴史旅を書いていますが、今回はこれまでと違い、中国の現代建築、そして中国で活躍している日本の建築家の話を書こうと思います。
年末年始、実家に戻った際、久しぶりに上海の外灘の夜景を撮影しました。
外灘の建物は19世紀~20世紀の間「上海租界」の時建てられた西洋式高層建築ですので、上海の百年の歴史を振り返る時、ここがメインスポットです。
黄浦江の向こう側は高さ世界2位の上海中心(632m)をはじめとする、近年新しくできた高層ビルが主役になってきました。
私は日本で建築巡りもしていて、時々中国の知人から「日本の建築について書いてください」の依頼を受けることもありますが、日本語で中国の建築を書くのは初めてです。
常に変化していくまち「上海」、世界の多くの建築家がここを実験場として、モダンな建物がどんどん出来てきました。
生まれる建物・消えていく建物、古いものや文化を守りたい人・新しいものや文化を追いかける人、その2種類の人達は違うようでいて、ここでは共存して生活しています。
この新旧混合で微妙なバランスを保っているのが、私が生まれ育ったこの上海です。
もちろん、その「世界の建築家」の中には、日本の方もいらっしゃいます。
「安藤忠雄氏」と「隈研吾氏」、この二方は日本だけではなく、中国でも「お馴染み」の方として人気があります。
2017年の秋頃、東京の国立新美術館にて、安藤氏の日本の初の個展である「挑戦」が開催されました。
ここを見に行ったのは台風の日で、ガラスのない光の教会の雨風が印象的でした。
余談ですが、この個展で原寸大に復元された光の教会は大阪府茨木市にある茨木春日丘教会です。十字架の部分にはガラスがついています(見学は事前予約要)。
安藤氏は自然要素を建築に取り入れることを大事にしている方で、昔からこのガラスを外したいと度々言っていました。
安藤ファンとしては、このガラスのないバージョンを目の前にしているのは感無量でした。
ちょうどこの冬に、中国上海の安藤氏の力作である「光の空間(Light Space)」が完成し、中で個展が開かれていたので見に行きました。
安藤氏にとっても、自分がデザインした建物の中で個展を開くのは初めてだそうです。
当初、「内容は東京の個展と同じじゃない?」と思っていたのですが、予想と違って中国のプロジェクトがメインで驚きました。
タイトルは「引领」、英語に訳すと「LEADING」です。中国をLEADINGする、建築業をLEADINGする気概を感じられますね。
「光の空間」は「明珠美術館」と「新華書店」の2部分でできた4000平方メートルの多目的文化芸術空間です。
ショッピングモールの中に存在するこの空間は、卵の形の中にビルが挟みこまれています。 芸術と書籍がもたらす文化がここで集合し、力を蓄え、育てることを意味しています。
特に美術館と書店の真ん中の空間は、ココだけ光が差し込み「宇宙」を感じますね。
天井まで続く圧巻の大書架は東大阪市の司馬遼太郎記念館に似ているので、安藤氏らしいと言えるでしょう。
まだ建築途中のものが多いですが、いくつかの安藤氏の中国での施設をピックアップして紹介します。いずれも上海やその近くにあるものです。
北京にも進行中のプロジェクトがたくさんありますが、今後が楽しみですね。
震旦博物館は、震旦グループの董事長である陳永泰氏が、社会貢献のために作った博物館です。
最初は2003年に台湾に建てられたのですが、上海にあるのはその後の分館です。
博物館は6階建て、面積6313平方メートルです。ガラス張りの建物はシンプルですが、館内の円形空間には螺旋状の階段が設置されていて、流れるような幾何学的な美が溢れています。
ここには陳氏個人蔵の中国古代の陶俑(唐代からの焼き物)、歴代の玉器、青花磁器、仏像などが鑑賞できます。
中国古代の生活、そして中華文化の変遷と発展を感じられる博物館です。
また、古器物学研究センターも建物の中に設置されていて、「料、工、形、紋」から文物の解析・研究がここで行われています。 特別展示室、図書室などを具えており、講演会を聞いたり、最新技術の音声ガイドやAR・VRを楽しんだりしながら勉強する人も多いです。
博物館の5階には黄浦江西側のビルたちの倒影をきれいに撮れる写真スポットも設けられています。
昼には湖畔の玉石、夜には透明感溢れる水晶箱になり、水中の倒影と共に静かに佇んでいます。
この箱形の大型シアターの総面積は5.6万平方メートル、総投資額7億元(約110億円)です。音響効果と舞台装置機能はすべて中国トップレベルです。
市民たちは手頃な値段でオペラ、舞台劇、コンサート、バラエティーショーなどの公演をここで楽しめます。
箱形は一辺の長さが100メートルの立方体で、コンクリートの外壁の外には更に透明なガラス張りです。 この立方体の中には5つの円筒形スペースが互いに突き通っていて、独特の形状になり、入口、休憩室、移動経路など動的な屋内スペースが構築されています。
違う角度から見ると、円筒形の空間が万華鏡のように豊かで多様な外観を呈しています。
シンプルな外観は、豊かなインテリアとは対照的です。
これらの円筒形の空間は、劇場の待合室や野外劇場などの重要な機能的空間にもなっています。
上海保利大劇院は中国初めての水景劇場がついている劇場です。建物は水、風、光などの自然要素と組み合わされ、観客はさまざまな角度から違う景色を見ることができます。
ちょうど私が行った時は清掃時期で水が入っていなかったですが、いつかは建物の水中倒影の姿も撮りたいですね。
上海から高速鉄道で約1時間で行ける杭州にも最近新しい建物がたくさんできています。
良渚村文化芸術センター(Liangzhu Village Cultural Art Centre)にある良渚村は中国の古代文明が眠る土地です。
ここで出土された遺跡は新石器時代後期の文化で、紀元前3300年~前2300年頃に稲作農業を発達させた長江文明の存在を示しています。
文化があるこの村は、近年凄まじい勢いで発展し、文化人が集まる場になっています。
安藤忠雄氏がここで建てた良渚村文化芸術センターはその一つです。東洋の美学と西洋の建築理論を融合させ、建物とその周辺環境を完全に一体化して、安藤氏独特な空間的概念を表現しています。
水庭と河川の間に植えられた桜の木だけではなく、建物の裏側にも森が作られ、建物は自然の中に静かに立っています。
四角いや丸い構造だけではなく、三角形も多く使われていて、自然光の形も幾何学の表現で豊かになっています:
南側の三角形の庭、建物の大きな三角形の屋根、屋根の三角形の天窓...写真では撮れないですが、上空から俯瞰できたらその面白さも少しわかるでしょう。
文化芸術センターは3つのブロックに分けられいます。南側はアートギャラリーの機能を備えた展示棟、北側は研修室などの教育機能を備えた教室棟、中央は読書室と図書館機能を備えた文化棟です。 大きな屋根の下に、3つのブロックは「三」の文字のレイアウトで配置されています。 4つの庭園も互いにつながっており、定期的なアートイベントが開催され、町の芸術の場となっています。
文化棟の図書館「暁書館」は中国有名な作詞家・作曲家である高暁松が出資した公益図書館です。床から天井までのガラス張りで自然光が自由に入り、一方、屋内から見ると、屋外の自然風景も絵になっています。
現在進行中のプロジェクトも含め、安藤氏が中国で手掛けた作品は20ヶ所を超えました。
私がまだ学生の時に、上海で安藤氏の講演会に参加したこともあったので、この国際化のブームは決して近年からではなく、かなり前に遡れますね。
上海には古い建物が少ないですが、時には現代建築巡りも楽しいと思います。
次回は、もう一人の建築家である隈研吾氏の建築を巡りながら、「材料」に注目しながらもう少し「中国風」の建物を見ようと思います。
▼この記事を書いたひと
R&Dセンター 陸 依柳
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