社員がゆく日本の建築家が中国に建てたビルたち Vol.2

日本の建築家が中国に建てたビルたち Vol.2

「中国っぽい」の建物と言ったら、皆さんは何を思い出しますか。
万里の長城や故宮のような古い「レンガ」「瓦」で出来たものを思い出す人が多いのではないでしょうか?。
超高層ビルがどんどん建てられている上海にも、「中国っぽさ」を大事にしている建物が増えてきました。

こんな中で注目されているのはリノベーション施設です。
最近の「歴史ブーム」のおかげで、工場、屠殺場、格納庫など、老朽化で取り壊すよりも改造し残されるビルが人気になっています。

 

船厰1862(2017年・中国上海市)

その中の一つが隈研吾氏が手掛けた「船厰1862(Shipyard 1862)」です。

1862年に、イギリスの英聯船厰と造船会社の招商局造船厰がここで造船所を建てました。
1972年に一度建て替えられましたが、現在このエリアは工業区から金融区になりつつあり、造船所は2005年をもって引っ越ししました。

残されたこのビルは、当時の造船所の一部です。今は「工業建築遺跡」になっています。

Shipyard 1862

Shipyard 1862

「中国の現代工業はここから生まれ育った」と言っても過言ではないでしょう。1978年、中国初めての万トン船「紹興号」はここから初運航しました。
その工業が今「歴史」となり、「歴史としての工業を人に見せる」のがこの建物のノベーションの目的でもあります。

レンガで建てられた造船所の味わいを残すため、有孔レンガをφ8mmのステンレスワイヤで固定して作った半透明のスクリーンで覆われ、レンガの密度はグラデーショナルに変化します。
隈氏のポエティックな心が十分に味わえます。

Shipyard 1862

Shipyard 1862

隈氏がこの建物の一番面白いところは「空間の大きさ」と考え、船の大きさ感じさせるため、建物の内部の吹き抜けをそのまま残しました。
更に、古いものの質感を感じさせるために、風化したコンクリートの柱や錆びた鉄パイプもできるだけ残され、活用されています。
当時の造船所の一部を今でもそのまま生かしています。

Shipyard 1862

Shipyard 1862

この150年以上の歴史を持つ造船場は、現在複合建築として再生されています。
広さ26000平方メートルの空間の中には劇場、展示スペース、レストラン、ショッピングモールなどが揃えています。更に、劇場のステージの背後が巨大なガラスで、カーテンをあけると黄浦江が眼の前に出現するという演出が可能となりました。

建物の隣にある上海の中央を流れる黄浦江は、長江が東シナ海に入る前の最後の大きな支流です。
上海人の生活用水がこの江と密接に関係しており、隈研吾氏は黄浦江を「上海の個性」と呼ばれたこともあります。近年ジョギングが流行っているので、ランニングコースも整備されています。

Shipyard 1862

Shipyard 1862

アクセス:上海市浦東新区濱江大道1777号
地下鉄4号線「浦東大道」下車、3号出口より徒歩13分

 

中国美術学院 民芸博物館(2015年・中国杭州市)

レンガだけではなく、隈研吾氏が中国でデザインした建物の中で、瓦を活用する建物もあります。
杭州の中国美術学院象山キャンパスにある民芸博物館(The Crafts Museum)を一緒に見てみましょう。

中国美術学院 民芸博物館

中国美術学院 民芸博物館

ステンレスワイヤーで瓦を吊ったスクリーンで外壁は覆われています。 あいにくこの日は曇りでしたが、晴れる日にこの瓦スクリーンは太陽光をコントロールして、室内が一気にキラキラになるだそうです。もちろん、瓦は全部MADE IN CHINA、その土地の素材を使われています。

中国美術学院 民芸博物館

中国美術学院 民芸博物館

ここの敷地は元々茶畑でした。傾斜した地面や大地と一体化するため、建物は複雑な地形にそって平行四辺形の小さな屋根をたくさん架け、瓦屋根が連続する「村」のような風景が作られました。
屋根で使われている瓦は民家の古瓦です。新しくできた建物と言っても、とても大地の匂いを感じられる作品です。

中国美術学院 民芸博物館

中国美術学院 民芸博物館

民芸博物館は中国の民俗工芸文化の継承や活性化を伝えるために建てたミュージアムです。たとえ海外の建築家がデザインされても、「中国っぽさ」がちゃんと残されていますね。

中国美術学院 民芸博物館

中国美術学院 民芸博物館

アクセス:杭州市西湖区轉塘鎮象山村352号
バス4番線、202番線、287番線、292番線、331番線などを「轉塘街道」で下車すぐ

 

いま隈研吾氏も上海で事務所を構え、いくつかの個展が開かれています。

世界各地で多くのプロジェクトを作られている隈氏の建築は「物質」や「素材」にこだわって作られています。
「素材の形や表情などを見てもらうだけでなく、五感に訴えたいと考えました。それぞれの素材の持つ音を想像し、匂いを味わってもらえれば」と言っています。
隈氏が共同設計に携わる新国立競技場は観客を木に囲まれるような設計で、高知県有名な雲の上のミュージアムなども中国の作品と「質感」と違い、味も違いますね。

新国立競技場

木橋ミュージアム

 

もしまだ時間があれば、建築好きな人はぜひ中国美術学院のキャンパスも見学しましょう。
ここは中国で初めて(「建築界のノーベル賞」とも言われている)プリツカー賞を受賞した建築家王澍(王ジュ)氏の実験場でもあります。中国伝統の山水絵画にも精通する王氏は、ここで巨大な園林(中国庭園)をデザインしました。

中国美術学院

中国美術学院

建物はそれぞれ違う個性をもっていますが、孤立する感じもなく、バランスがよく取れています。

特にプリツカー賞受賞後建てた「水岸山居」という茶室・食堂・客室が一体化される建築群です。建物の中は更に「村」のようになり、園林のように散策できます。

中国美術学院

中国美術学院

5000人以上の大学生が暮らしているこのキャンパスは、山水と建物が共存されて、詩的な空間になっています。

中国美術学院

中国美術学院

ヨーロッパの「人間本位」と違って、アジアの「自然は大きく、人間は小さい」の考え方が根付いています。この「自然」と「まち」のバランスも今後の中国の都市建設の参考になるのでしょう。

 

更に、2018年オープンしたキャンパス内の中国国際設計博物館はプリツカー賞受賞者であるポルトガル人建築家のアルヴァロ・シザ氏が設計されました。建築面積1万6800平方メートル、近現代の設計作品がここで展示・研究されています。

中国美術学院

中国美術学院

 

中国伝統の山水絵画や園林を体感したければ、杭州そのまちが最適ですね。
西湖の周辺の風景は中国っぽさ満載です。

杭州西湖

杭州西湖

21世紀、世界がどんどん狭くなっていますが、様々な対立も出てきました。
都市と自然の対立、新と旧の対立...その対立をデザインや物の力で解消できるのは、建築家が目指していることです。

みなさんも、ぜひ中国のまちを歩いてみてください。歩く時の速さや音で、まちの質感が感じられます。
こういうものを通じて、人間が分かりあえ、共存できる日がいつか来るのでしょう。



 ▼この記事を書いたひと

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R&Dセンター
陸 依柳

撮影、お城、戦国、ICT、サブカルチャー...常に面白く、新しいものに惹かれるタイプです。地方の戦国イベントによく参加しています☆


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